桃果の契り 才人妃は皇太子に溺愛されて
「小桃……どうすれば、君は会ってくれるのだろうか。」

戸の外から響く声は、悔しさを滲ませて震えていた。

胸が苦しくなる。けれど私は、涙を堪えながら答えた。

「……皇太子様。どうか、もう私のことはお忘れください。」

一瞬、空気が張り詰める。

「なぜだ!」

鋭い叫びが、夜の静けさを切り裂いた。

「どうして君を忘れろなんて言うんだ!」

戸に額を押し当て、私は涙ながらに訴えた。

「皇太子様には、他の妃がおいでです。どうか……その方々にお情けをおかけください。」

沈黙ののち、荒ぶるような声が返ってきた。

「俺に――おまえ以外の女を抱けというのか!」

胸が痛む。

でも私は返事をしなかった。

ただ涙が頬を伝い、声が出せなかった。

長い沈黙のあと、戸越しに冷たい声が落ちた。

「……こんなことになるのなら、妃の位にするのではなかった。」

その言葉とともに、足音が遠ざかっていく。

「……皇太子様……」

嗚咽混じりに名を呼んでも、もう返事はなかった。

残された部屋に、孤独と後悔だけが重く沈んでいた。
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