桃果の契り 才人妃は皇太子に溺愛されて
その夜もまた、皇太子様は戸の外に立っておられた。

静かな夜気の中、落ち着いた声が響く。

「……お願いだ、小桃。何もしない。ただ顔を見たいだけなんだ。」

その必死な響きに胸がざわめき、私は戸の内側に座り込んだ。

「どうして……どうして私にそこまでこだわるのですか。」

短い沈黙ののち、戸越しに迷いのない言葉が落ちた。

「君に惚れているからに決まっているだろう。」

心臓が大きく跳ねる。

私は震える声で返した。

「……会ったこともないのに?」

次の瞬間、戸を小さく叩く音が響いた。

「それでも……君を想っている。」

低い声には焦燥と切実さが滲んでいた。

戸を隔てているのに、息遣いさえ感じるほどに近い。

私は両手を膝に置き、必死に心を抑え込んだ。

(信じていいの……? この人の言葉を。)

けれど胸の奥で、煌の笑顔と重なる何かを感じてしまう。

涙が滲み、答えられずに唇を噛みしめた。
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