桃果の契り 才人妃は皇太子に溺愛されて
「……覚悟を決めたのでしょう?」

司馬陽の声が鋭く響き、私は思わず後ずさった。

「こんなことを言うのもなんですが――他の妃達は、まだ誰ひとり皇太子様と閨を共にしておりません。」

「えっ……⁉」

耳を疑った。

この後宮には、皇太子様のために数え切れぬほどの女が集められているのに?

それなのに、誰も――?

司馬陽は淡々と告げる。

「夜の相手に所望されたのは……柳妃。あなただけなのです。」

「……なぜ……」

体が震え、言葉が途切れる。

足元の畳が揺れているように感じた。

「それは――」

司馬陽の瞳が真剣に光る。

「ご本人から、直接お聞きください。」

答えをはぐらかすような言葉。けれど、そこには確かな意味が込められていた。

胸がぎゅっと掴まれる。

なぜ私なのか。

なぜ煌を想ってはいけないのに、皇太子様に求められるのか。

答えは庭園にある――そう告げられているようだった。

私は震える手を膝に置き、ただ深く息を吐いた。
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