桃果の契り 才人妃は皇太子に溺愛されて
「あなたが……柳妃なのね。」

一人の妃が、すっと私の前に立ちはだかった。

「はい……」と答えると、その女はわざとらしく背を向け、冷たい声を投げつける。

「皇太子様のお誘いを断るなんて……ご自分の立場をわきまえてのことなのかしら?」

「えっ……?」

胸が凍りついた。

「皇太子様の誘いを……断る?」

私の声に、周囲の妃たちがざわめく。

「なんてことを!」

「信じられない……」

非難と驚愕の声が次々と浴びせられ、私は立ち尽くすしかなかった。

妃の一人が、鋭い目で私を睨む。

「まだ誰も皇太子様の閨を務めていないというのに……どうしてあなたばかりが選ばれるの。」

その視線は嫉妬に燃え、突き刺さるようだった。

全身が震え、声が出ない。

(どうして……どうして私なんかを……)

皇太子様が執拗に私を求めていることは、もう後宮全体の噂になっている。

――そう悟った瞬間、逃げ場を失った恐怖に胸が締め付けられた。
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