桃果の契り 才人妃は皇太子に溺愛されて
「あっ……皇太子様よ!」

妃たちの声が一斉に上がり、皆が深く顔を伏せた。

私も慌てて裳を整え、頭を垂れる。

「どうした。こんな場所で一人の妃を追い込んで……それで楽しいか。」

その声に、胸が大きく跳ねた。

――聞き覚えのある声。何度も夢に見た、あの響き。

「しかし、皇太子様。」

先ほど私を責め立てた妃が、毅然と答える。

「お誘いを断るなど、妃にあってはならぬことと存じます。」

少しの間を置き、落ち着いた声が返ってきた。

「私は……何も、無理強いしてまで夜を共にしようと思わない。」

――この声!

全身の血が逆流するようだった。

私の中に焼きついているのは、あの庭で桃をかじりながら笑った煌の声。

同じ響き、同じ温もりがそこにある。

顔を上げたい。確かめたい。

でも足が震えて、視線を上げることさえできない。

(まさか……そんなはず……でも――!)

胸の奥に、抗いようのない確信が芽生え始めていた。
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