桃果の契り 才人妃は皇太子に溺愛されて
「……柳妃。」

名を呼ばれ、私は思わず背筋を伸ばした。

「……はい。」

「こちらに来てくれまいか。」

皇太子様の声に導かれ、私は庭園の中央に架かる橋へと足を運んだ。

頭を深く垂れたまま、一歩、また一歩と進む。

(どうしよう……怖くて顔を上げられない。)

静かな水音の中、再び声が落ちてきた。

「……小桃。」

その名に思わず顔を上げる。

「あ……」

そこに立っていたのは、金糸の衣をまとい、冠を戴いた皇太子――けれど、その眼差しは私の知る煌そのものだった。

「やっと会えた。小桃。」

優しい微笑みに、堰を切ったように涙が溢れた。

「……煌……!」

声が震える。

彼はわずかに目を細め、懐かしむように笑った。

「ああ、そんなふうに呼ばれるのは……久しぶりだな。」

その一言で、張り詰めていた心がほどけた。

私はもう耐えきれず、橋の上で彼に駆け寄り、涙のままにその胸へと飛び込んだ。
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