桃果の契り 才人妃は皇太子に溺愛されて
「……本当に、煌なの⁉」

涙で滲む視界の中、私は震える声で問いかけた。

「疑うのか。」

低い声が、どこか楽しげに響く。

「だって……いつもと違う装いだし。」

目の前の彼は、金糸の衣をまとい、冠を戴いている。

私の知る煌は、質素な武人の衣に無造作な髪――まるで別人のように見えた。

「ああ……これでも俺、皇太子だし?」

口元に笑みを浮かべ、彼は肩をすくめる。

「ちゃんとした服を着ないと、司馬陽に叱られるんだよ。」

「……ええっ⁉」

その砕けた言い方、肩の力の抜けた笑顔――間違いない。

私の知る煌、その人だった。

「そうだな。これを見せれば、納得するか?」

彼は懐から細長いものを取り出した。

月明かりを受けて輝いたのは、金細工の施された簪。

「あ……それは……!」

胸が高鳴る。

父から託され、あの日、別れの印として渡した簪。

煌――いや、皇太子は柔らかく笑った。

「君からもらった、大切なものだ。」
< 67 / 148 >

この作品をシェア

pagetop