桃果の契り 才人妃は皇太子に溺愛されて
「……やっぱり、煌なのね。」

私がそう告げると、煌――いや皇太子様は、ためらいもなく私を抱きしめてくれた。

広い庭園の真ん中で、彼の胸の温もりに包まれる。

「すまなかった。もっと早くに、こうしていればよかったね。」

耳元に落ちる低い声に、涙が溢れる。

あの夜、戸を叩き続けていた皇太子様が、煌だったなんて。

私は震える声で言った。

「私……何も知らずに……」

「うん。ちょっと頑固だと思った。」

「もうっ!」

込み上げる照れと悔しさに、思わず彼の胸を軽く叩こうとした。

すると煌は、柔らかく微笑んで私の手を取った。

「……いいんだよ、叩いても。」

「……え?」

「俺は君の夫だ。君に叱られるなんて、嬉しいことだよ。」

その言葉に胸が熱くなる。

涙と笑みが同時にあふれ、私は彼の胸に顔を埋めた。

(煌……ずっと、ずっとあなたが欲しかったの。)

夜風に揺れる花々の中、ふたりの距離はもう、二度と離れないものになっていた。
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