桃果の契り 才人妃は皇太子に溺愛されて
「どうして……言ってくれなかったの?」

涙を拭いながら問いかけると、煌は少し視線を逸らした。

「言えないんだよ。決まりで、君を柳妃って呼ばなきゃならないし。」

ふてくされたように唇を尖らせる。

「いつもの格好もできない。誰が聞いているか分からないから、無理に戸も開けられないんだ。」

彼の声音には、皇太子としての重責と、ひとりの男としてのもどかしさが滲んでいた。

やがて真剣な瞳で私を見つめ、低く告げる。

「でも……嬉しかった。俺を想って、他の男を拒もうとした君が。」

胸が熱くなる。

あの夜ごとの涙は、無駄ではなかったのだ。

「……煌だって知っていたら……」

唇を震わせ、絞り出す。

「断らなかったのに。」

その言葉に、煌は驚いたように目を見開き、やがて深く息を吐いた。

「小桃……」

次の瞬間、彼の腕が再び私を強く抱きしめた。

私の鼓動と彼の鼓動が重なり合い、もう離れられないと悟った。
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