桃果の契り 才人妃は皇太子に溺愛されて
「……よかった。」

ふと背後から声がして振り返ると、そこに司馬陽が立っていた。

普段は冷静沈着な彼の目に、うっすら涙が光っている。

「司馬陽……?」

「失礼しました。」

慌てて袖で目を拭ったが、震える声は隠せない。

「私は……嬉しいのです。あの女嫌いだった皇太子様が……こうして、一人の妃様を選ばれるなんて。」

「……女嫌い?」

驚いて問い返すと、司馬陽は静かに頷いた。

「もう、どれほどの美姫が集められようと、興味を示されなかったのですよ。」

そう言うと煌は、困った顔をした。

「うるさいな。皆同じ顔にしか見えないんだから、仕方ない。しかも俺は女嫌いじゃないぞ。」

胸の奥がじんと熱くなる。

煌が私を選んでくれたことは、ただの気まぐれではなく――本気。

司馬陽は深く頭を下げ、涙をこぼしたまま言葉を結んだ。

「柳妃様。どうか……皇太子様をお支えください。」

私は煌の胸に寄り添いながら、強く頷いた。
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