桃果の契り 才人妃は皇太子に溺愛されて
そして私は、改めて夜の誘いを受けた。

「柳妃。皇太子様が、今宵お所望です。」

司馬陽の言葉に、今度は迷わず頷いた。

「……分かりました。必ず参ります。」

湯殿に向かうと、侍女たちが丁寧に衣を解き、湯を用意してくれる。

湯面には淡い桃の花びらが浮かび、ほのかに甘い香りが立ちのぼっていた。

「桃の香りをお湯に入れております。」

「……ありがとう。」

最初は不思議に思ったこの香りも、今は私と煌。

――ふたりだけの秘密の証のように思えた。

身を清め、夜着をまとい、胸の奥に高鳴りを抱えながら皇太子様の寝所へと向かう。

「柳妃様、お見えです。」

宦官の声とともに扉が開かれる。

そこには正装を脱ぎ、私を待ち構えていた煌がいた。

その眼差しは、ずっと会いたかった人に向けられるもの。

私の足は自然と前に進み、胸の奥の震えが甘い期待へと変わっていく。
< 72 / 148 >

この作品をシェア

pagetop