桃果の契り 才人妃は皇太子に溺愛されて
寝所の扉が静かに閉じられると、広い部屋には煌と私だけが残された。

蝋燭の灯が揺れ、天蓋の下の寝台がぼんやりと浮かび上がっている。

「……小桃。」

その名を呼ぶ声は、以前のように砕けた響きを持ちながらも、どこか重みを帯びていた。

武人ではなく――皇太子としての煌。

私は裾を握りしめ、深く頭を下げた。

「お呼びに応じて、参りました。」

「顔を上げてくれ。」

恐る恐る視線を上げると、彼はゆっくりと歩み寄り、私を抱き寄せた。

香油に混ざる桃の香りがふたりを包む。

「ようやく来てくれたな。」

囁きに胸が熱くなる。

「……ごめんなさい。怖かったのです。煌だと知らずに、拒んで……」

「いいんだ。」

彼は私の頬に触れ、優しく微笑んだ。

「君が俺以外を受け入れなかったことが、何より嬉しい。」

その言葉に涙が込み上げ、私は彼の胸に顔を埋めた。

(やっと……やっと本当に結ばれるのね。)
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