桃果の契り 才人妃は皇太子に溺愛されて

第6章 唯一の寵妃

それは、誰もが目を疑う光景だった。

庭園での茶会。皇太子・煌は、数多の妃たちを前にして、ためらいなく私の手を取ったのだ。

「小桃、こちらに座れ。」

人々の前で名を呼ばれただけでも心臓が跳ねるのに、用意された席は皇太子のすぐ隣。

その場にいた妃たちの視線が、一斉に私に突き刺さった。

「……柳妃様を隣に?」

「なんということ……」

ざわめきが広がる。

煌はまるで気にしていないように微笑み、私に杯を差し出した。

「飲め。口に合うはずだ。」

「は、はい……」

恐る恐る口をつけると、煌は満足そうに頷いた。

「似合っているな、その衣も。そのかんざしも。」

「……ありがとうございます。」

囁き声は優しく、それでいて人前で隠そうともしない。

その瞬間、後宮全体に噂が走った。

――皇太子が最も傍に置く妃は、柳小桃。

私の胸は熱く高鳴りながらも、不安に締め付けられていた。

(どうして……こんな私が、煌の隣に……)
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