桃果の契り 才人妃は皇太子に溺愛されて
後宮だけではなかった。

ある夜、煌が催した宴の席でも、彼は当然のように私を隣に座らせた。

煌の右手には高位の大臣たちが連なり、左手に控えるのは――私。

「小桃、盃を。」

煌が手を差し伸べると、私は慌ててお酒を注いだ。

その仕草すらも誇らしげに受け取り、煌は口をつける。

「やはり君の手から飲む酒は旨い。」

囁きは小さくとも、周囲には十分に届いた。

家臣たちは目を伏せながらも、互いに視線を交わしている。

「皇太子殿下のお気に入りは……柳妃だ。」

「他の妃を差し置いて……前代未聞だ。」

そんな囁きがあちこちで交わされ、瞬く間に広がっていくのがわかった。

胸が熱くなる一方で、不安も募る。

(こんな私が……煌の隣に座っていていいの?)

煌はそれを知ってか知らずか、杯を置くと私の手をそっと取った。

「小桃、俺の傍にいるのは当然だ。誰の目があろうとも、隠すつもりはない。」

その言葉は、家臣の間にも響き渡り――

やがて「皇太子の妃は柳妃」という噂は、朝廷中に知れ渡ることになった。
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