桃果の契り 才人妃は皇太子に溺愛されて
「私たちは……皆、皇太子様にお仕えするために後宮にいるのです!」

安妃が涙を溢れさせ、震える声で訴えた。

「それなのに、選ばれるのは柳妃様ばかり……。どうか、私たちにもお心をお分けくださいませ。」

すすり泣きが広間に響き、他の妃の一人がそっと安妃の背をさすった。

その光景に、胸が締めつけられる。

その時だった。司馬陽が一歩進み出て、煌に深々と頭を下げる。

「殿下。こうなれば、交代で夜伽の番をして頂くしかございません。」

「司馬陽!」

煌の声は鋭く響いた。

だが司馬陽は真っ直ぐに頭を垂れたまま答える。

「秩序を守るためです。後宮全体の均衡を崩すわけには参りません。」

広間は静まり返った。

安妃は涙に濡れた顔を隠しながらも、陰で小さく口元を歪めた。

――その一瞬の笑みを、私は確かに見た。

(これは……計算された訴え……?)

胸の奥に、不安と恐怖がじわりと広がっていった。
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