桃果の契り 才人妃は皇太子に溺愛されて
そしてついに、その日が訪れた。

私以外の妃が夜伽に選ばれたのだ。

それは――安妃だった。

「ふふ……。今夜は金木犀の香りを仕込んであるの。」

湯殿の前を通ったとき、彼女の自慢げな声が耳に届いた。

胸が締め付けられる。

煌が、他の女と共に夜を過ごす。

その現実が鋭い刃のように突き刺さる。

部屋に戻ると、堪えていた涙が頬を伝った。

(ああ……今夜、煌は……別の女を抱くんだ。)

寝台にうずくまり、声を押し殺して泣いた。

でも――分かっている。

これは、後宮の秩序を守るため。

私だけが選ばれ続ければ、必ず火種になる。

だから……仕方がないのだ。

「煌……」

震える唇から、彼の名が零れ落ちる。

その夜の闇は、ひどく冷たく感じられた。
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