桃果の契り 才人妃は皇太子に溺愛されて

第7章 皇后の影

「お久しゅうございます、煌明様。……紅蓮でございます。」

広間に、透きとおるような声が響いた。

立ち並ぶ妃たちの中でも、彼女の気品と美しさは群を抜いていた。

朱家の血を引く煌の従姉妹――紅蓮。

「煌明様の皇后に選ばれましたこと、私の誇りにございます。」

深々と礼をする姿に、侍女や宦官たちは安堵の吐息を洩らし、妃たちの顔には笑みが広がった。

「やはり皇后はご血筋の方こそふさわしい。」

「これでようやく、後宮に秩序が戻るわ。」

安妃もまた、勝ち誇ったように微笑んでいた。

ただひとり、煌だけが無表情のまま紅蓮を見つめていた。

「ああ……」と短く声を漏らすだけで、その瞳には何の熱も宿っていない。

私は列の端で静かに頭を下げながら、その光景を見つめていた。

胸は締め付けられるように痛む。

(皇后の座は、やはり私には遠すぎる……)

煌と紅蓮――並び立つ二人の姿が、眩しく見えて仕方がなかった。
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