私は遠くから
週末の夕方、夕奈は岸本悠里に誘われて、少人数で出かけることになった。
 颯真も一緒だ。バイト先では見せない、少し緊張した表情で現れる彼を見て、夕奈の胸は小さく跳ねた。

 「桐谷さん、こっちに来てください」
 颯真が小声で声をかける。
 「ありがとう、颯真くん」
 思わず自然に笑みがこぼれる。

 歩きながら、颯真は少し照れくさそうに言った。
 「……桐谷さん、バイトやめないでくださいね。僕、居場所なくなっちゃうから」

 夕奈は一瞬、胸の奥がぎゅっと熱くなるのを感じた。
 「……そんなこと言われたら、やめられなくなっちゃうじゃん」
 笑いながらも心臓は早鐘のように打つ。

 悠里は横でにやりと笑い、ささやく。
 「ほら、見て。颯真、桐谷さんに夢中じゃない」
 夕奈は慌てて目を逸らす。
 ――友達に指摘されると、余計に自分の気持ちがはっきりする。

 遊びを続けながら、二人は自然と並んで歩き、ふとした瞬間に笑い合う。
 颯真の奥手さも、照れくささも、全部が魅力的に見えた。

 でも、心の片隅では不安もあった。
 「私、この気持ち、うまくいくのかな……」
 笑顔を見せていても、夕奈の胸は小さく波打っていた。

 帰り道、颯真がぽつりと呟く。
 「桐谷さんと話してると、なんだか時間があっという間に感じます」

 夕奈は微笑み返し、心の奥でそっと答えた。
 ――私も、同じ気持ち。
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