社畜と画家は真っ新なキャンバスに何を描く

 「ねえねぇ、理沙さんの誕生日っていつなの?」
 「…急ですね」
 「今の話の流れから気になったって言ったら申し訳ないけど、気になっちゃった」

 俺の純粋な興味に水を差すのも憚られるため、特に隠しもせずに答える。

 「来月ですね。えーっと…3週間後の金曜日ですね」

 壁にかけられたカレンダーを確認しながら返せば、彼はうーんと小さく唸る。

 「もうすぐで驚いちゃった。何か欲しいものはある?」
 「何もいらないですよ」
 「ほら、食べたい物とかないの?」
 「金曜日なので終電がなくなる前に帰りたいなと思っているぐらいですね」
 「社畜だ~…」
 「でもここに引っ越させてもらってから大分楽になりましたよ」

 それでも苦い顔で見つめられてしまう。そんな顔しないで欲しい。現に精神的にも良くなってきている。

 このまま指摘され続けても辛いし、さっさと話題を逸らそう。

 「市野さんの誕生日はいつなんですか?」
 「僕?僕の誕生日はもう終わったよ」
 「え、そうなんですか!?言ってくださいよ」
 「うーん…でも、僕はいい思い出をもらった日だったからわざわざ言わなくてもいいかなって」
 「いい思い出?」
 「ま、その話はまたの機会にでも」

 明らかにはぐらかされた。でも食事もちょうど終わったし、わざわざ掘り返すのは違うだろうと突くことはしなかった。

 その後は来週の宿題の話とちょっとした世間話をして、隣にある自分の家に戻った。

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