社畜と画家は真っ新なキャンバスに何を描く
静かな部屋は、やはり電気が点けられない。彼の部屋に明かりが灯るのは、曇りや雨でどうしようもなく部屋の中が見えない時だけ。
半年間で彼の作品をいくつも見てきたが、そのどれもが自然を愛した故に創り上げられた作品だった。その作品は、こうして自然な光の下で創られたものだと知った時、その作品の本当の魅力に気づかされたような気がした。
「私、この部屋が好きです」
零れ落ちた言葉は完全に独り言だった。それでも、彼は小さく笑って返事をしてくれた。
「そう言ってくれて嬉しいな。僕も、理沙さんならいつでも大歓迎だよ」
その言葉と共にテーブルに運ばれたのは、コーンスープとオムライス。一度キッチンへ戻った彼はサラダと食器を持ってくると、向かいの席に腰かけた。
「何がいいか分からなかったからオムライスにしちゃった。大丈夫?」
「はい。オムライス好きですよ」
「そっか。よかった」
いつもならこんなこと聞かれないのにどうしたのだろうと首を傾げてしまう。しかし彼は何でもないように笑うと、静かに手を合わせた。私もそれに倣って手を合わせる。
「「いただきます」」
市野さんの作るオムライスは本当に美味しかった。ふわふわとろとろで、お店で出しても文句なしのクオリティだと思う。それを素直に伝えるも、やはり照れたように笑うだけだった。
「ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした。美味しかったようでなによりだよ」
そう言って食器を下げてくれる市野さん。こんなに至れり尽くせりの生活でいいのかと思ってしまうが、彼がいいと言ってくれる内は甘えておこう。