社畜と画家は真っ新なキャンバスに何を描く
「でも、ケーキはまた今度ね。こんな時間から食べたら健康に悪いでしょ」
「けーき?」
「うん。理沙さんの誕生日ケーキ。一瞬迷ったんだけど、さすがにこの時間はね」
思わぬ言葉に驚いてしまう。
「もしかして、覚えていてくれたんですか?」
「もちろん。折角教えてくれた誕生日はちゃーんと覚えてるよ」
そう言って悪戯に笑う彼に、不覚にも頬が緩む。
オムライスの確認も、「誕生日にオムライスでいいのか」という確認だったようだ。しかし、偶然にも私の大好物はオムライス。ちゃんと嬉しかった。
「でも理沙さん、この前『たんじょうびぐらい終電前には帰りたい』って言ってたのにしっかり終電逃しちゃってるし…僕、当日にお祝いしたかったんだけど?」
「も、もしかしてベランダにいたのって…」
「待ってた」
笑顔で迷いなく言われた言葉に、一気に血の気が引く。
そんな、意図していないとはいえ、相当待たせてしまったに違いない。
「嘘っ!!本当にごめんなさい!言ってくれれば連絡しましたよ!」
「ははっ、そんなに焦らないでよ。大丈夫だよ、僕が待っていたかっただけだし」
ころころと表情を変えながら笑ってくれる市野さんに、申し訳なさと嬉しさを感じる。誰かに帰りを待ってもらっていたのなんていつぶりだろうか。
「ということで、本当は当日に渡すつもりだったプレゼントがありまーす」
そんな言葉と共に、市野さんは軽い足取りとリビングを出て行ってしまった。何の反応もできないまま待っていると、程なくして彼はリビングに戻って来た。
彼の手には何かが抱えられいる。