社畜と画家は真っ新なキャンバスに何を描く
階段を上り切ると305号室が目の前にある。左につ進むに連れて4、3…となっていくようだ。左の突き当たりまで進むと、そこは予想通り301号室だった。インターホンを鳴らすと、程なくして鍵が開いた。
「いらっしゃい」
近くで見ると意外と高身長だ。猫背ではあるが、私よりも明らかに高い。
「お、おじゃましまーす…」
家に上がらせてもらうと、そこは独特の匂いが立ち込めていた。不愉快ではないが、懐かしい匂い。
部屋は電気がつけられておらず、無音が広がっているだけだった。唯一の光は、開け放たれた窓から入ってくる青白い月光。
部屋自体はまあ、お世辞にも綺麗とは言えない状態だった。しかし、それと同時に匂いの原因が何か分かった。
「…絵、描いてるんですか?」
床に落ちる絵の具を見ながら呟くと、家主はゆるく肯定した。
「そ。こんなんでも、一応専業で食べていけるぐらいにはやらせてもらってるよ」
窓際に立てられたイーゼルとキャンバス。まだ大まかに色が乗せられただけではあるが、それらが月光に照らされている光景こそがまさに1枚の絵のようだった。
「あ、床は色んなものが散らばってるから椅子に座って待ってて。ご飯はもう少しでできるから」
「…ありがとうございます」
お言葉に甘え、空いている座らせてもらう。
部屋を見渡してみれば、必要最低限の家具しかないことに気がついた。物も散らかっているように見えて、床に転がるのは画材のみ。