社畜と画家は真っ新なキャンバスに何を描く
水の流れる音を聞きながら、食べ進める。
部屋の電気は未だに点けられていないが、月の光で十分だった。それほどまでに今夜の月は煌々と照っていた。
ペタペタと足音を鳴らして帰ってきた彼もそれに気付いたようだ。
「あ、そういえば電気つけてなかったね。点けよっか」
「…このままでも大丈夫ですよ。でも、点けたければ任せます」
「そう?うーん…じゃあ、このままで」
一度は電気のスイッチに手を伸ばした彼だったが、私の言葉に手を下ろした。そして向かいの席に座ると、改めてニコニコと私を見つめてきた。
「食べないんですか?」
「さっき味見で食べたよ」
「それは食事と言えないじゃないですか」
じっと見つめると彼は困ったように頬を掻く。
「食事、苦手なんだよね」
「こんなに美味しい料理作れるのに勿体ないですよ」
「お姉さんには申し訳ないけど、それすごく手抜きだよ?」
クスクスと笑われる。でも本心からの言葉だし、見ず知らずの私のために作ってくれた料理を手抜きだなんて思えない。
それから、雑談しながら食事を進めた。相変わらず男性は食べないけれど、それでも私が一口食べる度に嬉しそうに笑う。
「ご馳走様でした」
「はい、お粗末さまでした」
空っぽになったお皿を運ぼうとまとめていると、さり気なく持っていかれる。あまりにも自然な動きに驚いてしまう。
「や、やりますよ!悪いですって!」
「お客さんなんだからゆっくりしててよ。こんな時間まで仕事っていうことは、多分朝も早いんでしょ?」
図星なため、何も言えない。反射で押し黙れば満足げに頷かれてしまった。