社畜と画家は真っ新なキャンバスに何を描く
この半年で、変化は日常へ
そんな出会いから、気づけば半年が経とうとしていた。
私は市野さんの隣の部屋に引っ越し、彼には日曜日の午前だけ勉強を教えている。最初は半年に1回程度かもしれないと言ったが、すっかり週1回に定着していた。
「じゃあアルミには磁石にくっつくと思いますか?」
「うーん…くっつかない、?」
「どうしてそう思いましたか?」
「前教えてくれた時に、アルミは1円玉に使われているっていう話があったじゃん。だから磁石にくっつくと両替機とか大変かなって思った」
不安そうにこちらを見る市野さん。それでも根拠をしっかり持って答えてくれたことが嬉しく思う。
「アルミが磁石にくっつかないのは大正解です。根拠もしっかり考えられるようになりましたね」
「まじ!?正解なの!?」
「はい。正確にはアルミは磁場を感知しない性質だから、という原理なのですがそれはまた追々で大丈夫です。まずは基礎から詰めていきましょうね」
「うう…気になる」
「もっと知りたいと思えることが大切ですから全部は言いませんよ。今後のお楽しみです」
そう言えば、市野さんは頬を膨らませた。見た目こそ大人だが、中身は随分幼いと感じる。やはり画家という職業柄、自分と向き合う時間が長かったのだろうか。
「あ、っと、もうお昼だね。今日も食べていくよね?」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「うん!準備してくる!」
彼は引き出しから数冊のワークを私に渡すと、パタパタとキッチンに駆けて行った。今手渡されたのは、彼に宿題として課している国語と社会のワーク。知識面に関しては一通り教えてから、ワークを通して復習してもらうようにしている。
彼がお昼ご飯を作ってくれる間、私は宿題を確認するのが習慣化していた。