社畜と画家は真っ新なキャンバスに何を描く

 元は夜ご飯を作ってもらう話だったが、日曜日に限ってはお昼ご飯を作ってもらっている。それ以外の日は平日の晩御飯。土曜日は各々という形だったが、何だかんだ作ってもらうことも多い。

 正誤も自分でやってもらっているが、正直市野さんは頭がいいと思う。地頭がいいのもあるとは思うが、単純に飲み込みが早い。単純に知らないことを知ることが楽しいという感覚の持ち主。教える側としては教えがいがあるというもの。

 「理沙さ~ん。ご飯よそってくれる?」
 「はーい。今行きます」

 彼用の茶碗と私用の茶碗にご飯をよそう。そして、それぞれの箸を机に運んでおく。あの時のような割り箸ではなく、しっかりとした洗って何度も使う箸。

 「ありがと。今日はハンバーグにしてみたんだ~」

 市販だけどね、と言って彼は笑うが、鼻を擽るいい匂いにお腹が鳴る。すっかり胃袋を掴まれているが、そんなことは気にしない。みそ汁などを並べ、向かい合って手を合わせる。

 「「いただきます」」

 最初の方は一緒に食べることを嫌がっていた市野さんも、今では一緒に食べるようになっていた。その間にひと悶着あったが、今は本人の口から「お腹が空いた」という言葉をよく聞くし、結果的には良い方に転がった。

 「市野さんのお味噌汁は本当に美味しいですね」
 「ほんと!?そう言ってもらえて嬉しいな~」

 嬉しそうに笑いながら箸を動かす市野さん。最初に出会った時に比べれば、彼も私も健康的な身体になって来たと思う。
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