忘れたはずの恋心に、もう一度だけ火が灯る ~元カレとの答え合わせは、終電後の豪雨の中で~
 向かった先は、評判のいい居酒屋。今日会う予定の友人とも、何度か来たことのある店だ。

 「いらっしゃいませ。何名様でしょうか」
 「2人で予約している山口です。多分連れが先に入っていると思うんですけど…」
 「山口様ですね。お伺いしております。どうぞこちらへ」

 どうやら事前に話を通しておいてくれたらしい。素直についていくと、見慣れた顔が小さく手を振っているのに気が付いた。

 店員が去ったのを見送り、席に着く。

 「ごめん、ちょっと遅くなっちゃった」
 「そんなに急がなくても良かったのに。お疲れ様」
 「ありがとう。圭吾もお疲れ様」

 遅刻に対して友人の圭吾は気を悪くしておらず、寧ろ朗らかに笑っている。その反応に、ほっと息を吐いた。

 「とりあえずビールと、由衣が好きそうなつまみは注文しておいた」
 「マジで助かる。とりあえず1杯飲みたい」

 そんな話をしていると、タイミングよくビールが運ばれてきた。机の上に置かれるが否や、示し合わせたかのように同時に持ち上げる。

 「んじゃ、とりあえず」
 「乾杯しようか」

 かんぱ~い、なんて声と共にジョッキを鳴らす。2人で満足いくまで飲むと、同時に息を吐いた。

 「あー…染みる」
 「生を実感する~」

 おっさん臭い発言に2人で笑う。運ばれてきたつまみにも手を伸ばし、とりあえず空腹を満たした。

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