十年越しの初恋は、永遠の誓いへ
第十四章 彼の苛立ち
「西園寺さん、資料ありがとう。すごく助かったよ」
佐伯の明るい声に、思わず笑みを返す。
そのやり取りを見ていた誰かの視線が、背中を突き刺した。
会議室の隅。
藤堂部長――蓮の瞳が、冷たく鋭く光っていた。
「……っ」
心臓が大きく跳ねる。
さっきまでの柔らかな空気が、一瞬で張りつめたものに変わる。
会議が終わると同時に、蓮の声が飛んできた。
「西園寺。少し残れ」
他の社員たちが出ていく中、私は机の前に立ち尽くした。
佐伯が心配そうに振り返ったが、蓮の一瞥に押し戻される。
ドアが閉まり、二人きりになった会議室。
「……なんですか」
恐る恐る尋ねると、彼は低い声で切り出した。
「……最近、佐伯とよく一緒にいるな」
「え……」
予想外の言葉に目を見開く。
「業務上のことです。佐伯さんは同じチームで――」
必死に説明しようとするが、彼は遮るように机に手をついた。
「必要以上に親しくするな」
冷たいはずの声に、確かな苛立ちが混じっていた。
「ど、どうして……そんなこと言うんですか」
声が震える。
彼は一瞬、言葉を詰まらせた。
だがすぐに、表情を固くして告げた。
「俺の部下だからだ。余計な噂を立てられても困る」
――それが本音なの?
それとも。
「……噂なんて、もう広がっています」
思わず口にすると、彼の瞳が大きく揺れた。
「っ……」
彼は視線を逸らし、奥歯を噛みしめるように沈黙する。
そして、吐き捨てるように言った。
「……勝手にしろ」
そのまま部屋を出て行こうとする背中に、胸が締めつけられる。
「部長……」
呼びかけた声はかすかに震えていた。
けれど彼は振り返らない。
ただ、その手がドアノブにかかる直前、一瞬だけ止まった。
小さな揺らぎを残したまま、彼は会議室を出ていった。
残された私は、深く息を吐いた。
――苛立ちの理由が「噂」なのか、それとも……。
答えのない疑問が、心をさらに掻き乱していく。
佐伯の明るい声に、思わず笑みを返す。
そのやり取りを見ていた誰かの視線が、背中を突き刺した。
会議室の隅。
藤堂部長――蓮の瞳が、冷たく鋭く光っていた。
「……っ」
心臓が大きく跳ねる。
さっきまでの柔らかな空気が、一瞬で張りつめたものに変わる。
会議が終わると同時に、蓮の声が飛んできた。
「西園寺。少し残れ」
他の社員たちが出ていく中、私は机の前に立ち尽くした。
佐伯が心配そうに振り返ったが、蓮の一瞥に押し戻される。
ドアが閉まり、二人きりになった会議室。
「……なんですか」
恐る恐る尋ねると、彼は低い声で切り出した。
「……最近、佐伯とよく一緒にいるな」
「え……」
予想外の言葉に目を見開く。
「業務上のことです。佐伯さんは同じチームで――」
必死に説明しようとするが、彼は遮るように机に手をついた。
「必要以上に親しくするな」
冷たいはずの声に、確かな苛立ちが混じっていた。
「ど、どうして……そんなこと言うんですか」
声が震える。
彼は一瞬、言葉を詰まらせた。
だがすぐに、表情を固くして告げた。
「俺の部下だからだ。余計な噂を立てられても困る」
――それが本音なの?
それとも。
「……噂なんて、もう広がっています」
思わず口にすると、彼の瞳が大きく揺れた。
「っ……」
彼は視線を逸らし、奥歯を噛みしめるように沈黙する。
そして、吐き捨てるように言った。
「……勝手にしろ」
そのまま部屋を出て行こうとする背中に、胸が締めつけられる。
「部長……」
呼びかけた声はかすかに震えていた。
けれど彼は振り返らない。
ただ、その手がドアノブにかかる直前、一瞬だけ止まった。
小さな揺らぎを残したまま、彼は会議室を出ていった。
残された私は、深く息を吐いた。
――苛立ちの理由が「噂」なのか、それとも……。
答えのない疑問が、心をさらに掻き乱していく。