十年越しの初恋は、永遠の誓いへ
第十六章 再び距離を置く心
「……忘れろ」
その言葉を残して、彼は背を向けた。
会議室の扉が閉まる音が、胸の奥に突き刺さる。
十年前、突然別れを告げられた日の記憶がよみがえる。
――まただ。
私はまた、同じ場所に立たされている。
次の日から、私は彼を避けるようになった。
会議で目が合いそうになると視線を逸らし、最低限の報告だけを口にする。
廊下ですれ違っても、気づかないふりをした。
「西園寺さん、最近元気ないね」
佐伯の穏やかな声が、心に染みる。
笑顔で応えようとするが、作り笑いはすぐに崩れた。
「……大丈夫です」
それしか言えなかった。
夜。
デスクに一人残って資料を整理していると、誰かの気配を感じた。
顔を上げると、ドアの向こうに彼が立っていた。
「まだ残っていたのか」
低い声。
以前なら心臓が跳ねていただろう。
けれど今は、ただ胸が痛むだけだった。
「……すぐ帰ります」
視線を合わせないまま、鞄を持ち上げる。
「西園寺」
呼び止められても、振り返らなかった。
それが唯一の抵抗だった。
背中に感じる視線が、どこか切なげに揺れているのはわかった。
けれど、踏み込む勇気はもうなかった。
――彼の言えない理由。
――私の知らない十年前の真実。
そのすべてが、二人の間に大きな壁を作っている。
帰り道の夜風は冷たく、頬を突き刺した。
街灯の下で、自分の影を見つめる。
「もう……近づいちゃいけない」
小さく呟いた声が震える。
どんなに想っても、彼は「忘れろ」と言った。
それなら、私は彼の望むようにするしかない。
――再び距離を置く心。
そう決意したはずなのに、胸の奥は苦しくてたまらなかった。
その夜、ベッドに横たわっても眠れなかった。
瞼を閉じれば、彼の横顔ばかりが浮かぶ。
冷たい拒絶と、不意の優しさ。
どちらも忘れられない。
「蓮……」
名前を呼んだ瞬間、また涙が零れ落ちた。
その言葉を残して、彼は背を向けた。
会議室の扉が閉まる音が、胸の奥に突き刺さる。
十年前、突然別れを告げられた日の記憶がよみがえる。
――まただ。
私はまた、同じ場所に立たされている。
次の日から、私は彼を避けるようになった。
会議で目が合いそうになると視線を逸らし、最低限の報告だけを口にする。
廊下ですれ違っても、気づかないふりをした。
「西園寺さん、最近元気ないね」
佐伯の穏やかな声が、心に染みる。
笑顔で応えようとするが、作り笑いはすぐに崩れた。
「……大丈夫です」
それしか言えなかった。
夜。
デスクに一人残って資料を整理していると、誰かの気配を感じた。
顔を上げると、ドアの向こうに彼が立っていた。
「まだ残っていたのか」
低い声。
以前なら心臓が跳ねていただろう。
けれど今は、ただ胸が痛むだけだった。
「……すぐ帰ります」
視線を合わせないまま、鞄を持ち上げる。
「西園寺」
呼び止められても、振り返らなかった。
それが唯一の抵抗だった。
背中に感じる視線が、どこか切なげに揺れているのはわかった。
けれど、踏み込む勇気はもうなかった。
――彼の言えない理由。
――私の知らない十年前の真実。
そのすべてが、二人の間に大きな壁を作っている。
帰り道の夜風は冷たく、頬を突き刺した。
街灯の下で、自分の影を見つめる。
「もう……近づいちゃいけない」
小さく呟いた声が震える。
どんなに想っても、彼は「忘れろ」と言った。
それなら、私は彼の望むようにするしかない。
――再び距離を置く心。
そう決意したはずなのに、胸の奥は苦しくてたまらなかった。
その夜、ベッドに横たわっても眠れなかった。
瞼を閉じれば、彼の横顔ばかりが浮かぶ。
冷たい拒絶と、不意の優しさ。
どちらも忘れられない。
「蓮……」
名前を呼んだ瞬間、また涙が零れ落ちた。