この歪んだ愛、いっさい油断なりません。

3話 兄の愛が重すぎる件について




◯鏡見家リビング・休日・お昼過ぎ
なごみ、梨々花と出かける予定の鈴音。いつもの制服姿とは違い、私服(ガーリー系)メイクもしてる。
家出る時間ギリギリで慌てた様子の鈴音がリビングに入ってくる。キッチンに立っている結都が鈴音の存在に気づく。
ゴンッという鈍い音がリビングに響いて驚く鈴音。結都が鈴音のあまりの可愛さにコップを床に落とした音。
結都の表情は鈴音が可愛すぎて衝撃を受けてる感じに。
鈴音が慌てて結都のほうに駆け寄る。
鈴音「結都くん大丈夫⁉ すごい音したけどケガしてない⁉」
結都「…………」間近で見る鈴音が可愛すぎて固まって何も言えない。
鈴音「指とか切ってないかな⁉ 痛いところとか――」
結都「痺れた」
鈴音「え?」
結都「鈴音が可愛すぎて」
鈴音(また始まった……。最近気づいたことがある。結都くんは極度のシスコンかもしれないということに)
日常的に鈴音に対して過保護な結都。お互いのスケジュールをアプリで共有してること。バイトが終わったら必ず結都に連絡すること。他にもいろいろあるけど、あげ始めるとキリがない。
家ではリビングにいると常に鈴音の隣をキープ、常に鈴音のことを見てる。
結都「こんな可愛い姿で出かけるとか危険すぎる。ってか、俺が兄として許可しない。このまま俺とふたりで家に……いやいっそ監禁――」
鈴音「友達と遊びに行くだけだから! 心配ご無用です!」
結都をスルーしてリビングを出ようとする鈴音。
急に腕をかばうようにしゃがみ込む結都。
結都「あぁ、腕痛い……たぶん今ので骨折れたかも。つまりこれって鈴音が俺のそばにいなきゃだよね」
鈴音「そんな茶番に付き合ってる暇ないから! じゃあ、お兄ちゃんはお留守番よろしくね!」


*場面転換


◯鈴音のバイト先のカフェ・放課後
鈴音「いらっしゃいませー! 1名様ですか――って、は⁉」
鈴音のバイト先に突然やってきた結都。撮影が近くであり、休憩時間なので鈴音のバイト先へ。帽子にマスク、メガネでばっちり変装済み。
結都「1名様でーす。鈴音ちゃん指名で」
鈴音「うちはそういうお店じゃないです。お引き取りください」
結都「冗談だよ。撮影が近くであったから、せっかくなら鈴音がバイトしてるところ見たいなと思ってね」
奥のいちばん目立たない席へ案内する。メニューとにらめっこ中の結都。鈴音は少し離れたカウンターのところでその様子を見てる感じ。
キッチンにいた店長が鈴音のいるカウンターへ、そこで結都の存在に気づく。
店長「ねぇ、鈴音ちゃん! あの人、めちゃくちゃオーラすごくない⁉」
鈴音「そ、そうですかね。顔が隠れてるのであんまりよく見えないですけど」
カウンターのところからジーッと結都を観察する店長がユイであることに気づく。
じつは店長はユイの大ファン。店のテーブルにユイのアクスタを飾ったり、ユイのサイン入りのポスターまで飾ってあったり、店内にある雑誌はぜんぶユイ関連のものばかり。
店長「まてまてまて……あれもしかしてユイ、じゃない……⁉」
結都の存在に気づいて大興奮の店長。
鈴音(そうだ、すっかり忘れてたけど、由紀さんは(店長の名前)生粋のユイファンだったんだ……!)
店長「いや、わたしの目が確かにユイだと反応してる……!! なんでうちの店に⁉」
うちわ2枚で顔を隠してユイの魅力を鬼語りしてる店長。
結都が鈴音に向かって手を振ってる、マスクをとって笑顔。
店長「まって、今わたしユイからファンサもらった⁉ うそ、もうわたし一生分の運使い果たしたよ、倒れそう……」
鈴音「て、店長落ち着いてください」
鈴音が自分のテーブルに来ないので、ふたりがいるカウンターへやってくる結都。
結都「ねー、鈴音のおすすめ教えて」
店長「はっ、え⁉ 鈴音呼び⁉ ちょっ、わたしの推しが鈴音ちゃんを呼んでるんだけど⁉」
親の再婚で、結都が兄になったことを説明。まだ正式に籍は入れてないので苗字は芦原のまま。
あらためて結都の人気がすごいんだと再認識。
店長の計らいで結都は休憩時間が終わるまでお店にいていいことに。
バイトしてる鈴音の写真を撮りまくる結都。連写でパシャパシャ撮ってる感じ。
結都はあまり写真に興味がない。スマホのカメラロールは写真がなんとゼロ。


◯回想シーン
鈴音のスマホの写真を一緒に見ている結都。家のソファでふたりで並んで座ってる感じ。
鈴音『結都くんは写真とか撮らないの?』
結都『俺は撮られる専門だし』
結都が鈴音にスマホを渡す。そこでカメラロールに写真がゼロだということに気づいて鈴音驚愕。
鈴音『な、なにこれ⁉ 写真1枚もないの⁉』
結都『だって撮りたいと思うものないし』
こんな写真に興味ないって言いきってたのに。


◯回想から戻る
そんな結都が興味ある鈴音の写真を撮りまくってカメラロールに保存してる。
鈴音「あの、結都くん? そんなに撮らなくてもいいんじゃない?」
結都「鈴音がどの瞬間も可愛すぎて無限に撮りたい」
鈴音(もう放っておいたほうがいいかな)若干呆れ気味。
気にせず再びバイトに戻る鈴音。
結都「あー……ほんと可愛いな」スマホの画面に映る鈴音を見て画面に軽くキスしてる感じ。


*場面転換


◯鈴音バイト終わり、帰る途中・夕方
上記の続きで、結都の撮影と鈴音のバイトが同じくらいの時間に終わったのでふたりで一緒に帰ることに。結都は目立たないように軽く変装。
結都が映るビルのスクリーンの前でふと立ち止まる鈴音。
鈴音「結都くんって、ほんとに人気のモデルさんなんだね」スクリーンを見上げて言う感じで。
自分の友達や、バイト先の店長……それに、今も結都が映るスクリーンの写真を撮ってる人がたくさんいるのを見て、結都の人気がすごいのを改めて実感。同時に、自分とは住む世界が違うのかなと思い始める鈴音。
鈴音の目線がスクリーンから結都を見る。周りにいる人たちはスクリーンの『ユイ』を夢中で見てる、鈴音だけは目の前にいる『結都』をしっかり見てる感じ。
結都「鈴音はみんなみたいにスクリーンの俺に興味示してくれないの?」
鈴音「わたしがいま見てるのは、スクリーンの中にいるユイくんじゃなくて目の前にいる結都くんだから」
なんの屈託もない笑顔を結都に向ける鈴音。周りと鈴音の見方が違う差がわかる感じで。
それが結都にとってはすごくうれしい、鈴音はやっぱり他の子とは違っていいなとあらためて思う結都。
鈴音「あっ、もちろんモデルとして活躍してるユイくんも素敵だけどね!」
鈴音の笑顔が可愛いと思って、写真をパシャリ。これが結都にとってお気に入りの1枚に。
鈴音「いま写真撮るところじゃなくない⁉ ってか、今わたしぜったい変な顔してた!」
結都「鈴音はいつも可愛いよ」
鈴音「今の写真消して!」
鈴音がジャンプして結都のスマホを取るとするけどうまくいかない感じ。そんな鈴音が可愛いなと思いながら、スタスタ歩き始める結都。
結都「鈴音はいつも俺の欲しい言葉をくれるね」
ご機嫌な結都と鈴音が一緒に帰る、ふたりの後ろ姿。


*場面転換


◯放課後・ファミレス
なごみと梨々花とテストに向けて勉強。集中力が切れて話題は相変わらずユイについて。
なごみ「はぁ……テスト滅びてほしい」
梨々花「なごちゃんいつもそれ言ってるよねぇ。永遠に滅びなさそう~」
なごみ「いっそテストの問題がぜんぶユイに関することにならないか……」
梨々花「あははっ、そうなったらなごちゃん満点じゃん」
なごみ「ユイがテストの必須科目になる未来はどこにあるんだぁぁぁ!」
テーブルにあるポテトをうまうま食べてる梨々花と机にゴツンと伏せてるなごみ。
なごみ「ユイが勉強教えてくれるという夢のサービスないだろうか」
梨々花「ほんとにユイは女の子の心つかみまくりだよねぇ」
なごみ「まったく罪な男だよ!! ね、鈴音!!」
鈴音「…………」
梨々花「もう、すーたん。ユイに興味なさすぎじゃなーい?」
一生懸命勉強中の鈴音のシャープペンを梨々花が取り上げる。
なごみ「鈴音も早くユイの魅力に気づくべきだよ! 共にユイという名の沼に溺れよう!」
今まではふたりがユイの話をしていても、聞いてるのが楽しかった。でも、今はユイが兄になって一緒に住んでるので、なんとも複雑な感じ。
テーブルに置いてある鈴音のスマホに通知。鈴音のスマホのロック画面がなごみと梨々花に一瞬見える。
梨々花「あれ~? すーたんのロック画面ユイじゃなかった?」
なごみ「し、しかもめっちゃプラべ感出てなかった⁉」
結都が勝手に鈴音のスマホのロック画面に自分の画像を設定していた。鈴音はあまりスマホを見ないのでいま気づいた。
慌ててロック画面を確認すると、ばっちり結都の自撮り。やられた……って感じの表情の鈴音。
鈴音(い、いつの間に……! ぜったい結都くんの仕業だ!)(しかもこれ、いつ変更されてた⁉ 少なくとも昨日の夜までは違ったから、まさか今朝? ということは、今日1日中この画像が設定されてたってこと……⁉)
梨々花「なぁんだ~。すーたんもユイにはまったなら言ってくれたらよかったのにぃ」
鈴音「ふたりの話聞いてたら、ちょっと興味わいたっていうか」
引きつった笑顔の鈴音。
鈴音(どうしよう。ユイがじつは兄になりました……って、ふたりにいつ話したらいい? 完全にタイミング見失った……)
仮にふたりに本当のことを言ったとしても、周りにばらすようなことはしないとわかっていながらも、いつどうやって話せばいいか迷い中。
このままだといつか結都の奇行によって思わぬところでばれそうと考える鈴音。
なごみと梨々花がもう一度鈴音のロック画面を見たがる。ここでスマホの充電が切れて画面が落ちる。
鈴音(た、助かったぁ……。おそらくさっきの写真はSNSにも一切載せられていないもの。そんなのわたしが設定していたら、ややこしくなっていくこと間違いなし)(それにしても、どうやってわたしのスマホのロック解除して……)
満面の笑みで何かを企んでる結都の顔が浮かぶ。
鈴音(いや、結都くんなら普通に考えて無理そうなこともなんなくやりそう)(帰ったらこの件、問い詰めてやる)


*場面転換


◯ファミレスからの帰り・夜8時過ぎ
なごみ、梨々花とファミレスで解散。勉強と他の話が盛り上がりすぎて帰る時間が少し遅くなってしまった。
帰りが遅くなることを家族の誰にも連絡していないことに気づく鈴音。とくに結都は超がつくほどの心配性。しかも結都は今日オフで家にいる。
鈴音(ま、まずい……。結都くんのことだから心配しすぎておかしくなってるかも)
カバンの中にモバイルバッテリーが入っていたことを思い出す。モバイルバッテリーのおかげでスマホ復活。
鈴音「……うわっ、なにこれ!」
思わず声が出てしまうほどの結都から怒涛のメッセージ&ほぼ5分おきの着信。
【今どこ】【すずー】【どこ】【どこにいるの、返信して】【電話なんで出ないの】【何かあったの】【心配すぎて心臓痛い】【ね、すずってば】【俺の電波拒否しないで】以下省略
通知の量が鬼すぎてロック画面が大変なことになってる。
鈴音(これは心配性とかの領域を超えてるのでは? しかもだいぶ重症というか、妹への愛強すぎない?)
すぐに結都に電話をかけようとしたら、後ろからものすごい勢いで走ってきた結都が抱きついてきた。
結都「鈴音!!」
鈴音「えっ、結都くんなんでここに⁉」
ものすごい息が切れてる結都。必死に鈴音を探してたのがわかる感じで。
結都「よかった……よかった、無事でよかった」鈴音をめちゃくちゃ抱きつぶすくらい
鈴音「ゆ、結都くん落ち着いて。あの、ちゃんと連絡しなくてごめんなさ――」つ、つぶれる……と思いながら結都をなだめる鈴音
結都「無理……ほんと無理。なんで俺の連絡無視すんの」
鈴音「無視したんじゃなくて、スマホの充電が切れちゃって」
結都「……捜索願出す寸前だった」
鈴音「そんな、ちょっと連絡が取れなかったくらいなのに。結都くんは心配性すぎるよ」
結都「俺のSNSアカウントに鈴音の写真載せて探してもらおうかと本気で思った」鈴音の写真がウォンテッドのフレームにはめられてる感じ。
鈴音「ダメダメ、炎上まっしぐらだから!」
鈴音(そんなことしたら秒で見つかりそうだし、わたしの顔がユイのファンにばれて大変なことになる……!)
抱きついてきた結都は息が切れてるし、少し汗ばんでる。ずっと自分のことを必死に探してくれていたのがわかる。ちょっとずれてるところはあるけれど、本当に自分のことを心配してくれる優しいところもあるんだよね……と、結都も悪気があるわけじゃないしと思う鈴音。
鈴音「えっと、心配かけてごめんね。探してくれてありがとう」
結都「俺の鈴音への愛こんなもんじゃないよ」
スマホのロック画面を勝手に変えたことも問い詰めてやろうと思っていたけど、結都のこの姿を見たら何も言えなくなる。
鈴音(怒りをうやむやにしてしまう結都くんは、ある意味ものすごい才能の持ち主かもしれない)
結都の少し歪んだ愛も、いいほうに受け取ろうとした鈴音に対してとんでもないことを言い始める結都。
結都「あぁ、そうか。俺のスマホは鈴音のためだけに存在するんだ」
鈴音「は、はい?」
結都「俺も同じ状況になったら鈴音と連絡取れなくなるのは困る……ってか死ぬ」
結都がやばいゾーンに入ってることを確信する鈴音。
結都「これを教訓にして鈴音以外の連絡先ぜんぶ消す」
鈴音「ストップ! お仕事関係の人の連絡先もあるからそれはダメだって!」
結都「んじゃ、鈴音専用スマホ契約する」
鈴音(ンンン……ナンデソウナル)
今にもスマホを契約しに行きそうな結都を必死に止める鈴音。
鈴音「結都くんちょっと狂いすぎてる!」
結都「うん、狂ってるの俺だけでいいよ。いっそずっとつないでおけたらいいのに」
鈴音「お、重い!!」
兄の愛は、わたしが想像しているより遥かに重たいのかもしれない。



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