毒舌男子の愛は甘い。
静かで容赦のない人
乾杯の後、場の雰囲気が少しずつ温まっていく。
梓はすぐにメニューを手に取り、料理の注文を取りまとめ、きた料理を取り分ける。
その手際の良さと明るい笑顔に、凪以外の男子陣からは早速好印象の声が上がる。
「梓ちゃん、しっかりしてるな〜! 絶対いい彼女になるでしょ」
「うんうん。綺麗だし、気配りもできててモテるでしょ?」
「……えっと…実は、わたし、男運ゼロなんだよね」
梓が苦笑まじりに言うと、千紗が笑いながらツッコむ。
「また言ってる!“尽くしすぎて捨てられる女”代表〜」
「ちょっと!言い方!」
梓がツッコミを入れつつ笑うその空気に、また場が和む。
それから、梓がどんなダメンズに引っかかったのかでしばらく盛り上がった。
そして、ふと、梓は凪の飲み物が空になってることに気づいて声をかけた。
「えっと、水野くん、だよね?飲み物、何がいい?」
凪は少しだけ梓の顔を見て、淡々とした声で返す。
「ジンバックで」
「了解。すぐ頼むね」
注文する梓に、凪がぽつりと呟いた。
「……アンタってさ、典型的にダメ男に好かれるタイプだよね」
「……え? 何、いきなり」
思わず固まる梓に、凪は静かに続けた。
「尽くすし、空気読むし、顔色うかがうのもうまい。」
「……え、いや、そんなこと──」
「でもそれってさ、相手からしたらめちゃくちゃ都合いいよね。
何しても許してくれて、機嫌とってくれるんだから。
そりゃ、ダメ男に狙われるわけだ」
言葉は静か。
けれど、容赦がなかった。
梓が言葉に詰まったのを見て、凪は一度だけ目線を合わせる。
「……たぶん、今まで、“好きになってくれたから好きになる”って、相手次第の恋愛しかしてないでしょ。」
「……っ」
核心をつく言葉に返答できない。
梓は笑おうとしたけど、できなかった。
グラスを持つ手が、少しだけ震えていた。
凪の声は、優しくもなかったけれど、なぜかまっすぐ響いた。
(初対面で……なんなの、この人)
ざらっとした痛みと、妙な説得力。
その夜、梓は「水野凪」という存在に、初めて心を掴まれた。