毒舌男子の愛は甘い。
「放っておけなかったから」
居酒屋を出ると、夜風が頬を優しく撫でていった。
凪は繋いだままの手をそのままに、もう片方の手でスマホを操作する。
「……あ、裕也?俺、藤宮さんと抜けるから。あとはよろしく。」
『え、ちょ、は?お前マジで──』
相手の戸惑いをよそに、凪は一方的に通話を切る。
「ここじゃ落ち着かないし、静かなとこ行こう」
「……うん」
そのまま手を引かれて、ゆっくりと歩き出す。
駅から少し離れた通り沿い。
ビルの影に、小さなカフェの灯りがぽつんと浮かんでいた。
看板の明かりの下で、凪が足を止める。
「……ここ、入ろ」
「うん」
まだ、手は繋いだまま。
梓がそっと手を離さずにいたことに、凪は何も言わなかった。
入ったのは、ガラス越しにオレンジの光が漏れる、静かな夜カフェ。
ふたりは窓際の席に腰を下ろした。
ほどなくして、注文したミルクティーとカフェラテがテーブルに置かれる。
立ち上る湯気を見つめながら、梓がポツリと言う。
「……ごめんね。泣いちゃって、気遣わせて…」
凪は小さく首を振った。
「……いや、俺の方こそごめん。泣かせるつもりはなかった」
「ううん」
「言いすぎたのはわかってる。……でも、放っておけなかった」
「放っておけなかった……?」
「うん」
凪の声が少しだけ低くなる。