毒舌男子の愛は甘い。
「……アンタさ、ちゃんと頑張らなきゃ愛されないって、思ってるでしょ」
梓の指が、ピクリと動いた。
「気を遣って、尽くして、笑って……“いい子”でいるのに疲れてる。でも、それって全部、好きになってもらうためでしょ?」
「……」
「でもさ、相手はその努力を“当たり前”って思うんだよ。優しくされ慣れてる男なんて特に。結果、アンタが苦しくなるだけ」
「……」
「見てて、なんか辛かった。たぶん、そのままだとまた同じこと繰り返すなって思って」
梓は唇を噛みしめ、けれど視線を逸らさずにいた。
「……水野くんって、本当に人のことよく見てるんだね」
「一応、心理学専攻だから。人間観察は、課題みたいなもん」
照れくさそうに言うその表情が、どこか柔らかい。
ふうっと息を吐いて、梓が続けた。
「私ね、ずっと“選ばれたい”って思ってた」
「うん」
「自分から好きになるのが怖いから、向こうが好いてくれたら『じゃあ私も』って。そうやって、恋愛してきた。でも結局、毎回ダメで……」
凪は静かに言葉を重ねた。
「……“選ばれること”が目的になってたからじゃない?」
「……!」
その一言が、胸に突き刺さる。
「本当に好きな人を“選ぶ”ことから、逃げてたんじゃない?」
梓はミルクティーのカップを両手で包み込んだ。
湯気の温かさが、ゆっくりと指先に沁みる。
(ああ、そうか。私も"選んで"良いんだ。)
そう思うと、ふわっと心が軽くなった。