毒舌男子の愛は甘い。
「……私、次こそはちゃんと、いい人と恋愛できるかな」
「藤宮さんが、自分をもっと大事にすれば、できるよ」
「……自分を、大事に?」
「うん。我慢しないで、嫌なことはちゃんと“嫌”って言う。相手の顔色ばっか見てたら、気づいた頃には都合のいい存在になってるから」
「……たしかに、最初は優しいのに、だんだん当たり前になってくる」
「それと、もうちょい疑ったほうがいい」
「えっ?」
「アンタ、すぐ人を信じるタイプでしょ。優しいのはいいけど、ちょっと鈍感すぎる」
「……鈍感って」
「アンタ、美人なんだから。狙われやすい自覚、ちゃんと持った方がいいよ。下心ある男なんて、いくらでもいるから」
さらりと口にされた“美人”という言葉に、梓は思わず目を丸くする。
「……び、美人って……そういうの、言い慣れてる?」
「いや。わざわざ言わない。言わなきゃわかんない人にだけ、言う」
ぶっきらぼうなのに、まっすぐで優しい。
その言葉が、どこまでも誠実で、心に響いてくる。
「……てか、人とこんなに喋ったの、久々かも」
「え、そうなの?」
「人と話すの、ちょっと疲れるタイプだから」
「……そんな人が、こんなに私のために話してくれてるって思ったら……またちょっと泣きそうなんだけど」
「泣くの禁止。引っ込めて」
「ふふ……水野くんって、やっぱり優しいよね。毒舌だけど」
「アンタがあまりにも男運無さそうだから、つい口出しただけ」
「……ほんと、ひどい」
私がそう呟いた瞬間、笑い声がふたりの間にこぼれる。
先程まで泣いていたのが嘘のように、穏やかな空気がながれた。
梓の目元には、もう涙の跡は残っていない。心のどこかに、やわらかく灯る光が宿っているような気がした。