クズなキミからの不適切な溺愛
『もし何も変わらなかったら?』

『大丈夫。ちゃんと伝わる』

そして彼女は俺に向かって、今度は困ったように笑った。

『だからもう泣かないで』

気づけば俺の頬に涙が伝っていて、俺は自分が泣いていることに気付いた。人前で泣くのはそれが初めてだった。

きっとずっと我慢していたんだと思う。

俺がいい子にして黙っていればいつか家族仲良く暮らせるんじゃないかって。

子供だったから。他の『普通』の家族みたいにただなりたかったんだ。

夕陽が沈む前に、またねと言って彼女と別れたその夜、俺は初めて両親に思いをぶちまけた。

今でもあの時の驚いた両親の顔は忘れられない。


そのあと結果的に離婚になり、弁護士をしている母親が俺を連れてでていくことで落ち着いたが、俺は心の中の鬱々としたものを吐き出したことで随分と心が軽くラクになった。

もう我慢しなくていい、と思えたことに救われた。

きっと誰かにずっとそう言って欲しかったんだと思う。

光莉さんの言葉と笑顔が俺の一部分を変えてくれた。 

あのまま我慢して大人になっていたら、もっとどうしようもないやつになってたから。



「懐かしいな……」

隣を向けば長いまつ毛を揺らして、光莉さんが規則正しい呼吸を繰り返している。

(俺のことを思い出してくれなくてもいい)

俺は彼女を抱き寄せると、そっとおでこに触れるだけのキスをする。

「……今の俺を好きになってください」

そして俺はスマホを6時にセットすると、彼女の可愛い寝顔にふっと笑ってから瞼を閉じた。

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