クズなキミからの不適切な溺愛
「……あの頃の私は幼くて両親を突然失って……何も考えられなかった。死を受け入れることさえできないのに、謝罪を受け入れるなんて無理な話でしょう」

「さすが人殺しは神経図太いわね」

「……高梨さん」

私は唇を湿らせてから静かに言葉を吐き出す。


「私、生前に母からよく言われたの。人を憎む時間があるなら、人を好きになる努力をする人になって欲しいって」

「いきなり何?! 偽善者ぶってんじゃないわよ!」

「あなたがどう思ってどう生きようとかまわない。私にはどうでもいいもの。あなたの人生だから。でもね、そうやって誰かを恨んで生きるより、もっと自分の為に生きる方がよっぽどいいと思う」

美蘭が私に詰め寄ると、首元をぐっと掴んだ。

「アンタなんか嫌い! 絶対許さないっ」

「許さなくて、いいよ。私もあなたを許さない」

私は持っていた鞄を地面に落とすと、首元を掴んでいる美蘭の手首を強く握った。

「でも──あなたのお父さんは赦すよ」

「……え?」

「だって……たくさん苦しんだんでしょう。だから赦したい」

「……っ、何それ……今更何よ……っ」


美蘭の目から大粒の涙が溢れ落ちる。

「大嫌い! アンタなんか死ぬほど嫌い! 一生ゆるさない!」

「それでいいよ。私も高梨さんのこと一生ゆるさないから」

そう言って私は美蘭の手を勢いよく払い除けた。

「なによ……何なのよ……っ」

彼女は雑に手の甲で涙を拭いながら、唇を強く噛み締める。

「他にまだ何か言いたいことあるなら聞くけど」

「……これからアンタの不幸だけを願って生きてくわ」

「…………」

そして美蘭は暫く私を見つめていたが背を向けて歩き出そうとして、振り返った。

(?)

「アンタなんて心底どうでもいいけど……がいいですよ」

「え?」

「……犬井さん、気をつけた方がいいですよ」

(和馬?)


最後にその言葉を残すと、彼女はその場を立ち去った。


彼女の姿が見えなくなると、私は力が抜けたようにベンチに座り込む。するとすぐに木の陰から長身の影がこちらに走ってきた。

「光莉さん! 大丈夫ですか?」

「吉良、くん」

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