クズなキミからの不適切な溺愛
吉良くんは桜の樹にもたれ掛かると『サマーサイダー』を開けた。

プシュッと炭酸の抜ける音がして、なんだかあの日の思い出と重なる。


「緊張してます?」

「それは……その、うん。返事のことずっと……考えてたから」

「それは俺も同じですね。はい」 

「え、先に吉良くん飲んでいいよ」

「そこは彼女優先でしょ」

(彼女……)


私は彼が差し出した『サマーサイダー』をそっと受け取る。

幼い頃はもっと大きく重たく感じたサイダーの瓶は思ったよりも軽かった。

こくんも飲めば、喉と口内に爽快感がさっと広がる。

「……っ、美味しい」 

「良かったです」

「うん、あと懐かしい味がした」


あの日、こうして『おーちゃん』とヨーヨーをぶら下げながら樹の下で『サマーサイダー』を分け合って飲んだ。

でもその時、彼がいつもより元気がなかったことを思い出す。
なぜなら彼は引越しが決まり、もう私と過ごすことができなくなることを知っていたから。

あの夏、私は『おーちゃん』と過ごしたことで救われた。都会育ちだった私に木登りや川遊びを教えてくれて、夢中になって夕暮れまで遊んだ。彼と会っているときだけ両親の死を考えずに笑顔になれた。

当時、彼も両親のことで悲しい気持ちを抱えていて、私と悲しみの種類は違うけど、共有している感覚があって救われた。

そして、彼が時折見せてくれた無邪気な笑顔に心が優しくなれた。


──あれは間違いなく、私の初恋だった。


「光莉さん、その男の子にビー玉もらったんでしたっけ?」

「うん、それでね……その時に約束してくれたの」

「どんな約束ですか?」

「うーんと……」

別れ際、男の子はビー玉を私に渡すとある約束をしてくれたのだ。

また会えるように。
また会えたら約束を果たせるように。
その約束は──。

「光莉さん?」

「やっぱり内緒。はい、吉良くん」  

「どうも」

彼は私から『サマーサイダー』を受け取ると瓶を傾ける。喉を鳴らして飲むと、彼が切長の目を細めた。

「俺もめっちゃ久しぶりにのみました。確かに懐かしいですね」

そう言って彼は『サマーサイダー』をじっと見つめた。夏の夜風が心地よく私たちの間を通り過ぎて、木の葉を揺らす音が心地いい。


「……光莉さん、初恋の子と『サマーサイダー』飲んだって言ってましたけど、実は俺もなんですよね」

「え……、そうなの……?」

私は思ってもみない彼の言葉に目を丸くした。

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