クズなキミからの不適切な溺愛


──数時間前。

「新名さん、手伝うことあります?」

俺は断られるであろうと分かっていたが、そう声を掛けた。

彼女はこの営業開発部でサブチーフを務めるほどに仕事においては非常に優秀だ。

どんな時でも冷静に誠実に対応し、毅然と仕事をこなす隣の彼女の仕事に妥協しない姿勢には脱帽だ。

日頃から彼女の抱えてる案件は多く、また夏の商戦に向けてただでさえ多忙なのに今日は、嘘つき脳内お花畑女こと、高梨美蘭の仕事まで引き受けている。

「ううん、大丈夫。ありがと」

彼女は俺の目を見てそう言うと、すぐにまたパソコンの画面を見つめる。

(ですよね)

(俺に頼るとか無いですもんね)


彼女の仕事に対する姿勢は俺が見てるこの二年、全然変わらない。むしろ月日が流れるにつれストイックになるばかりだ。

(朝も早いし、ちゃんと寝れてんのかな)

(てかちょっと痩せたよな。飯食ってんのかな)

俺は色々なことが一瞬頭によぎるが、口には出さずに鞄を抱えた。

「じゃあ、お先に失礼します」

「吉良くん、お疲れ様」

彼女は俺に向かって口角を上げ、皆と同じように作られた笑顔と共に挨拶を返す。

その誰に対しても変わらない対外的な笑顔に俺の心は今日も騒がしくなる。

俺は事務所の扉を開けると、さっさと会社をあとにした。

(金曜だし、一杯呑んでくか)

俺は自宅の近くにあるバーに向かう。

大通りから一つ筋を入ったところにあるこのバーは俺の知り合いがやってる店だ。

(着いた)

木製の扉に『Cinderella(シンデレラ)』と書かれたプレートが掛けられている。俺はすぐに扉を開いた。
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