クズなキミからの不適切な溺愛
「えっ、そんな嫌でした? あの、ごめん」

「ううん。違うの……優しいなって」

「あ、そっちですか。焦ったー……マジで」

甘い言葉を囁いてみたり、私の何気ない言葉に脱力したり焦ったりする彼は見ていて飽きない。

私は涙を拭くと、へへっと笑った。


「ん? 今度は何笑ってんすか」

「可愛……カッコいいなって」

「あの。どうみても可愛いって言いかけましたよね」  

「気のせいだよ。ほらほら、早く靴履いて」

「誤魔化しましたね」


私が靴を履くのをみて、彼はやや不満気にしながらも靴を履く。

私は玄関のドアノブに手をかけると振り返った。

「吉……、恩志くん」

「え?」

そして私は彼に向かって大きく背伸びをする。

「今日も仕事頑張ろうね。好きだよ」

耳元でそう言うと口紅がつかないように、ほんの触れるだけのキスを落とす。
彼から離れれば、彼がこれでもかと切長の目を大きくしている。


「な……にが、起こりました?」

「なんだろね」

呆然としている彼を横目に私は勢いよく玄関の扉を開け放った。

「何してるの、鍵閉めてダッシュ!」

「え、あ、了解です」

彼はハッとすると鍵を締めながら、まるで何かを振り払うようにブンブンと顔を振る。

「恩志くん、早く」

「すいません、邪念と煩悩を祓ってました」

「何それ」

「光莉さんがそれ言います? マジでやられっぱなしだし。夜覚えといてくださいね」

私はエレベーターの中で声を上げて笑った。

(愛おしいな)

そしてエレベーターを降りると私は彼が耳まで真っ赤にしているのを見ないフリして、会社に向かって駆け出した。
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