クズなキミからの不適切な溺愛
「わかった。このことはなかったことに……」

「だめですよ、光莉さん」

低い声でそう言うと、吉良くんは和馬とぐっと距離を詰めた。

「そっちがその気なら、弁護士に相談するまでです」

「はぁっ? せっかくこの僕が折れてやってんのに適当なこと言うなよな!」

「本気です」

彼の静かな怒りを含んだ目に和馬の両目が泳ぐ。

「訴えられたくなかったら、もう二度と彼女に関わらないと約束してください」

「……っ、そう熱くなんなよ。大体お前も可哀想だよな。光莉は僕が忘れられないからお前を代わりに──」

「もうやめて!」

彼の醜態をみていられず、私は大きな声を出した。

「あなたに気持ちなんて残ってない! これ以上、付き合ってた二年間のこと後悔させないで!」

「な、んだよ……」

「聞こえましたか?」

背の高い吉良くんが和馬を冷たく見下ろす。


「マジで次はないから」

「……っ、くそっ」

和馬は背中とお尻についた埃を払うことなく、資料室から転げるようにして出て行った。


「大丈夫ですか?」

「ごめん、また助けて貰っちゃった」

私が床に落ちている資料を拾い上げると、吉良くんがさっと私から取り上げ棚の上に戻してくれる。

「もっと頼ってください」

「ありがとう」

「いえ、ほんと偶然、資料取りに来たんですけど良かったです」

吉良くんは僅かに震えている私の手のひらに、そっと大きな手を重ねる。
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