クズなキミからの不適切な溺愛


(そろそろかしらね〜)

あたしは事務所の壁掛け時計に目にやる。

時刻は二十時半。

課長もすでに退社し、営業は全員直帰、先ほどまで残っていた数名の社員も二十時ちょうどに退社したため、いま事務所にいるのはあたしと新名先輩のみだ。


あたしは紙袋の中の小瓶をポケットに忍ばせると、席を立つ。

「新名先輩、カフェオレいれますね」

「あ、いいよ。もう終わるし」

「っていいながら、まだかかるんじゃないですか〜?」

「まぁ」

「じゃあいれますね、あたしも飲みたいので」

あたしは新名先輩の返事を待たずに事務所の片隅にある、給湯器へ行きスティックタイプのカフェオレを取り出した。

新名先輩の手がけている、新商品のアイスティーのデザインの締切が今日なのをあたしは知っている。

(バカみたいにカレンダーに書き込みしててくれて助かるわ)

その時、新名先輩がこちらに顔を向けた。

「高梨さんは仕事まだ終わらないの? 手伝おうか?」

「もう少しで帰るので大丈夫です」

あたしは内心舌打ちをする。

新名先輩の、この『仕事ができない貴方を仕事ができる私が助けてあげましょうか』、という意味合いを含んだ『手伝おうか』があたしは大嫌いだ。

(偉そうに人を見下して)

あたしは紙コップにお湯を注ぎ入れると、小瓶の中の液体を数滴落とし、マドラーでかき混ぜた。 

そして何食わぬ顔で新名先輩の机にことんと置く。

「どうぞ」

「いつも、ありがとう」 

「とんでもないです」

(さぁ、召し上がれ)

あたしは心からの笑顔を向けると、何も入ってない方のカフェオレに口付けながら、小瓶を封筒に仕舞う。

「ん、美味しい……」

「それは良かったです」

(五分ほどで効果が出るはず)

あたしはパソコンを打つフリをしながら様子を伺う。

「ん……あれ……」

「新名先輩? どうかしました?」

「ううん、何、でも……」

その言葉を最後に新名先輩は机に身体を預けると、瞼を閉じた。

そしてすぐに静かな寝息が聞こえてくる。

「……あははっ」

あたしは思わず、誰もいない事務所で声を出して笑う。

「ばーか」
< 88 / 218 >

この作品をシェア

pagetop