クズなキミからの不適切な溺愛
「ふうん。まっ、いっか」
美蘭はそう独り言を言うと、パソコンの電源をつけながら、今度は私のデスクの方に身を乗り出す。
彼女がつけている甘い香水の香りがふわりと鼻を掠めた。
「あの〜新名先輩~、先週言われてた資料なんですけど纏めるの代わって貰えませんか〜?」
「え、なんで?」
「ちょっと身内に不幸があって~。今日金曜だし田舎に帰りたくて~」
「…………」
彼女が今年に入って身内の不幸を理由に私に仕事を振るのはもう五回目だ。
(絶対嘘でしょ)
そう喉まで出かかった言葉を私はぐっと堪えた。証拠も何もない上に、どこでお葬式があるのか誰のお葬式なのかなど、個人情報を聞き出す行為は、感じ方によってはセクハラに該当する恐れがある。
一度、課長にも相談したが、もう少し様子を見るように言われているところだ。
「あの、俺思うんですけど、会社から御香典って出さないんですか?」
(!)
(その手があったか)
「確かにそうだね。高梨さん、お葬式会場教えて貰える?」
吉良くんの言葉にすぐに乗っかった私を見ながら美蘭が目を泳がせる。
「えっと、あのー……お気持ちは有難いですけど……家族葬なので遠慮させて頂きます」
(残念。そうきたか……)
(ナイスな助け舟だったけどな)
「そう……わかったわ」
仕方なく了承した私に、吉良くんの視線が一瞬向けられたのがわかった。
(だってこれ以上は仕方ないじゃない)
私はため息を押し込めると自分のパソコンを指差した。
「じゃあ高梨さん、あとでデータこっちに送っておいて」
「ありがとうございます~」
(今日も残業確定かな)
(和馬との予定もないし、社畜頑張りますかね)
私はカフェオレをぐいっと飲み干すと、隣の彼に負けないようにキーボードを叩き始めた。