クズなキミからの不適切な溺愛

「ちょ……っと……」

アルコールのせいもあって、すぐに耳から全身が彼の甘い声に支配される感覚がする。

「光莉さん、どうかしました?」

(どうかしたも何も……近過ぎて)
 
彼の匂いと声に酔ってしまわないうちに私は、彼の肩をツンと押し返した。そしてできるだけ、平然を装ってみる。

「き、吉良くんこそ、酔っ払わないでよね」

「確かに。俺も前科ありましたね」

ネグローニに口付けながら、ふっと笑う彼に結局また見惚れながら、私はサンドイッチに齧り付く。


(慣れ過ぎている上に……バーだと、やっぱり大人っぽく見えるな)

(改めて見ると本当綺麗な顔だし……)

(ここにも過去、色んな女の子と来たんだろうな)

吉良くんが男の人特有の骨ばった大きな手のひらで持ち上げていたグラスを置き、ネクタイを緩める。

──その時だった。

彼の視線がスラックスに向けられる。そしてスマホを取り出すと、気怠げにため息を吐き出した。

「電話、仕事?」

「いや、父親です。ちょっと外行ってきます」

「あ、うん」


カランとドアベルの音が鳴って彼が出ていくと、私はファジーネーブルを飲み干した。

(吉良くん、大丈夫かな)

彼と父親との関係が気にならないと言えば嘘になるが、海で話してくれた以来、彼も何も言わないため、私も聞いていない。

私は空になったグラスを手持ち無沙汰から見つめた。


(……次の新商品、ファジーネーブルもいいかもな……)

(あ。でも桃もオレンジも原価高いから……難しいかな)

こうしたときに飲料開発のことばかりが浮かぶのは、もはや職業病かもしれない。


「新名さん、こちらはサービスです」

「え?」

顔をあげれば神楽さんがにこりと笑いながら、カクテルを差し出す。

「スプモーニ、カクテル言葉は『愛嬌』で、可愛らしい新名さんにピッタリだなと」

「あの困ります。えっと……」

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