氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
     ◇
 通された部屋の居間(いま)を見渡すと、誰一人として姿が見えなかった。そのかわり奥の部屋から、複数の人の話し声がする。

「リーゼロッテー? 今ちょっと、動けないのよぉ。いいからこちらにいらっしゃい」

 その部屋からアデライーデの声がする。ちょっと苦しそうな声音(こわね)に困惑しつつ、リーゼロッテはその部屋に足を()み入れた。

 そこは衣裳部屋(いしょうべや)のようで、数人の侍女が並ぶその先に、臙脂(えんじ)色の鮮やかなドレスを着たアデライーデが立っている。普段はポニーテールにしているダークブラウンの髪を下に降ろして、どこから見ても高貴な令嬢にしか見えない。

 (つや)めいた生地のドレスが、アデライーデの美しさをいっそうひき立てている。いつもつけている眼帯は外されており、ジークヴァルトと同じ青い双眸(そうぼう)がリーゼロッテを見つめていた。

「久しぶりね、リーゼロッテ」
「お姉様……!」

(なんて素敵なの! 似合いすぎてる……!)

 瞳にハートを浮かべてリーゼロッテは祈るように胸の前で手を組んだ。臙脂色のドレスを飾る黒いレースが、豪華(ごうか)なゴシックドレスを思わせる。真っ直ぐな艶めいた髪がさらりとこぼれ、目の前のアデライーデはまるで等身大の緻密(ちみつ)な美しい人形のようだ。

 アデライーデの周りを囲む侍女の他にお針子の女性が何人かいて、その中には見知った者たちがいるのに気づく。

「まああ、リーゼロッテお嬢様。こちらでお会いできるなんて、なんということでしょう!」

 そう言ってメジャーを両手にぴんと張り目を見開いたのは、ダーミッシュ領でドレスの仮縫いをしてくれたマダム・クノスぺだった。

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