氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「リーゼロッテは弟の婚約者なのよ。ねぇ、マダム。もうこれ、脱いでいいかしら?」
「んまぁ! よいわけありません! ろくに採寸もさせてもらえずにドレスを作らされているこちらの身にもなってくださいませ!」
「だいたい着られればそれでいいじゃない。サイズだって前とそれほど変わっていないでしょう?」
「ええ、ええ、驚くほどバストもウエストもヒップも六年前と変わっておられませんわ!」
「だったらいいじゃない、もう脱いだって。まったく、コルセットは拷問(ごうもん)器具だわ」
「美とは心意気なのですわ! さあ、アデライーデお嬢様! このドレスには十七か所の作り直しが必要だとわたしのたぎった情熱が申しております! ええ、ええ、ご安心ください! このクノスぺが、お嬢様のお美しさを極限まで引き出して見せますわ!」

 くわっと目を見開いて迫るマダムに、アデライーデが辟易(へきえき)としている。

「ああん、もう……サイズはぴったりなんだしこれでもういいじゃない。わたしは夜会の主役じゃないのよ。ほどほどにしてちょうだい」
「んまぁ! わたしの作るドレスにほどほどなどという言葉は存在いたしません! 今日は納得いくまでお付き合いくださいませっ」

 アデライーデを見るマダムの目は、完全に瞳孔が開いている。アデライーデは観念したように両手を上げた。

「はあ、もう好きにしなさいよ」

(あのアデライーデ様が押されている……)
 リーゼロッテは唖然(あぜん)とした様子でやり取りを見つめていた。

「いいわ、これも鍛錬(たんれん)と思えばどうってことないわ。そんなわけで長丁場(ながちょうば)になりそうだから、せっかく来てもらって悪いけど、リーゼロッテは適当にくつろいでいてちょうだい」

 目配(めくば)せを受けた侍女がリーゼロッテを部屋の壁際(かべぎわ)に置かれたソファへと誘い、紅茶と茶菓子を用意してくれた。

「わたくしばかり申し訳ありません」
「いいのよ。それ、オスト地方のお菓子だけど結構おいしいの。よかったら食べてみて」

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