氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「ねえ、誰か。母から届いた例のアレを、今すぐここに持ってくるようエッカルトに伝えてちょうだい」
「いえ、ですが、あちらは旦那様が……」
「いいのよ。あの唐変木(とうへんぼく)にまかせていたら、いつになるかわかりゃしないわ」

 手をひらひらと振って「いいから早く」と困惑顔(こんわくがお)の侍女をエッカルトの元に行くよう(うなが)した。しぶしぶといった(てい)であったがその侍女は「(おお)せのままに」といって部屋を出ていった。

(これでマダムの気をそらせるわ)

 アデライーデは悪い顔でひとりほくそ笑んでいた。

 ほどなくして、先ほどの侍女がその腕に箱を携えて戻ってきた。肌触(はだざわ)りのよさそうな黒いベルベットが()られたその箱はとても高価なものなのか、箱を持つ侍女の手が小刻みに震えている。顔色までも青白く、とても緊張している(さま)(うかが)えた。

「リーゼロッテ、開けてみてごらんなさいな」

 箱をリーゼロッテの前のテーブルに丁寧(ていねい)に置くと、侍女は人心地(ひとごこち)がついたようにほっと息をついた。少しばかり(うら)みがましそうな視線をアデライーデに向けて、侍女は部屋の(すみ)に移動する。
 リーゼロッテそんな侍女の様子を目で追ってから、目の前に置かれた箱に視線を落とした。ゆっくりと手を伸ばして、その(ふた)を開けてみる。

「「「「「まあ!」」」」」

 侍女とお針子たちから感嘆(かんたん)の声が上がる。中でも一番大きな声をあげたのは、マダム・クノスペだ。

 箱の中身は青の守り石がさん然と輝く(きら)びやかな首飾りと、それと(そろ)いになった耳飾りだった。守り石だけではなく、ダイヤモンドを思わせる宝石が大小複雑にあしらわれた、それはそれは美しいものだ。

(領地でいただいた物もゴージャスでファビュラスだったけど……)

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