氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 リーゼロッテがうつむきがちに言うと、アデライーデは、はあ、と大きなため息をついた。
 マテアスから聞いてはいたが、ジークヴァルトの贈り物攻撃に、リーゼロッテが困惑しているというのは本当のことらしい。ダーミッシュ領に滞在していた時もその傾向はあったが、今はさらに症状が悪化しているようだ。
 アデライーデはそのままお針子たちの手を離れて、リーゼロッテの前まで歩を進めた。

「リーゼロッテ、あなたのその態度は(いただ)けないわね。あなたは(れっき)としたジークヴァルトの婚約者よ。それ相応(そうおう)大切に扱われるのは当然だし、それを当たり前に受け入れることも当然のことだわ。なのに、あなたのその態度は何? ジークヴァルトを馬鹿にしているの?」

 アデライーデの冷ややかな口調にリーゼロッテは目を見開いた。

「あなたのその()()いは、フーゲンベルク公爵家を(おとし)める以外の何物(なにもの)でもないわ。あなたのそれは謙虚(けんきょ)とは言わない。自分の自信のなさをごまかすためのただの詭弁(きべん)よ。はき違えないでちょうだい」
「わたくしそんなつもりはっ」

 アデライーデに冷たく見下ろされて、リーゼロッテは反射的に立ち上がった。血の気が引いて指先が冷たくなっていく。涙がせりあがってくるのを感じたが、絶対にここで泣いてはいけないと、リーゼロッテはぐっと奥歯に力を入れた。

「あなたにそんなつもりはなくても、周りの者はそう受け止めるのよ。いいこと、リーゼロッテ。社交界に出れば、口さがない人間は(いや)になるほどいるわ。あなたがそんな態度のままでは、この先思いやられるわね」

 突き離すような声音(こわね)にリーゼロッテの顔色がますます白くなっていく。周りの人間は口を出すこともできずに、はらはらとふたりを見守っていた。

 しばし重い沈黙が続いた後、アデライーデはふっと口元に笑みを浮かべた。(やわ)らかい物腰でリーゼロッテに近づき、そっとその(ほお)を両手で包みこむ。

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