氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「他人へのその気遣(きづか)いはあなたの美徳(びとく)だわ。でもね、それはいつか必ず大きな(すき)となる。それに、ジークヴァルトにだけは、そういう垣根(かきね)はつくらないであげてほしいのよ。……大丈夫、ヴァルトに(まか)せておけば何も心配はいらないわ。あなたはただ笑って、ジークヴァルトに守られていればそれでいいの」
「アデライーデ様……」
「あら、もうお姉様とは呼んでくれないの?」

 茶目っ気(ちゃめっけ)たっぷりにウィンクされて、リーゼロッテはますます泣きそうな顔になった。

「ダメよ。ほら、笑いなさい。あなたにならできるはずよ」

 青い瞳にまっすぐ見つめられたリーゼロッテは、きゅっと唇をかみしめた。一度瞳を閉じてからゆっくりとまぶたを開く。そして、やわらく微笑みをつくった。それは見事な、お手本のような淑女の笑みだった。

「そうよ、それでいいわ」

 満足げに微笑んでアデライーデはリーゼロッテを抱きしめた。リーゼロッテもその胸に顔をうずめて、そっと抱きしめ返す。

「アデライーデお姉様……」
「ふふ、リーゼロッテは本当に可愛いわね」

 そう言ってするりと蜂蜜色の髪をなでた。

「さあ、この件はもうおしまい! で、マダム。こっちの件はどうするつもりなの?」

 重苦しくなった空気をかき消すように、アデライーデはマダム・クノスぺに明るい声で問いかけた。こっちの件と指さしたのは、ケースの中で輝く『オクタヴィアの瞳』だ。

「どうもこうも、こちらの宝飾(ほうしょく)をリーゼロッテお嬢様がお付けになってデビューに(いど)むとなると、わたしもこのまま引き下がるわけには参りませんわ!」

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