氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 言うなりマダムは紙の束を取り出して、(もう)スピードでペンを(すべ)らせた。描いては飛ばし描いては飛ばし、ものすごい勢いで紙が宙に舞っていく。

「ほほほ! インスピレーションが止まりませんわ! こうなったらリーゼロッテお嬢様のデビューのドレスは一から作り直しさせていただきます!!」
「ええっ!?」

「じゃあ、わたしのドレスはこのあたりでオッケーね!」
「ええ、今日はもう(しま)いにしましょう。アデライーデお嬢様のドレスは、わたしが責任をもって夜会までにかんっぺきに仕上げておきますわ! このクノスペにお任せください! ほほほほほっ、たぎるわ! この血がたぎって仕方がないわぁぁぁ!」
「さ、この窮屈(きゅうくつ)なドレスはさっさと脱ぐわよ」

 アデライーデは侍女たちに指示して、ラフな部屋着のドレスへと着替えにかかる。

「では、わたしたちはこれで失礼いたします。リーゼロッテお嬢様、また仮縫いでお会いいたしましょう」

 散乱したデザイン画をお針子たちがかき集めると、マダム一行は嵐のように去っていった。

「はあ~作戦成功ぅ」

 居間のソファに腰かけてアデライーデがはしたなくのびをする。侍女の一人に非難めいた視線を送られるが、どこ吹く風でそのままごろんとソファに寝転んだ。

「アデライーデお嬢様! 公爵令嬢ともあろう方がそのようなはしたない格好をされて! リーゼロッテ様を見習ってくださいませ!」

 いきなり水を向けられたリーゼロッテは、向かいのソファに腰かけたまま居心地(いごこち)悪そうに身じろぎした。

「いいじゃない、ここはわたしの部屋よ。肩も()ったし寝転がるくらい別にいいでしょ」

 今朝方早く戻ってきて、仮眠もそこそこにマダムの着せ替え攻撃が始まったのだ。ようやく窮屈(きゅうくつ)なコルセットから解放されて、あくびのひとつも出ると言うものである。

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