氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
「お嬢様! 昔のようにどこででも寝てしまう(くせ)は直っておられないのですか?」

 アデライーデは子供の頃、力を使い果たしては行き倒れて、所かまわず眠ってしまっていた。それは公爵家の屋敷だろうと王城の敷地内であろうと変わらずで、あちこちでみなを心配させたものだった。
 さすがに今はそんなことはしなくなったが、社交界でアデライーデはいまだに『フーゲンベルクの眠り姫』と呼ばれているのだ。

「よそではこんなことはしないわよ。久しぶりに帰ってきたっていうのにうるさくいわないで」

 ふくれ面をしてアデライーデはクッションを抱えたまま背もたれの方へ横向きとなった。首をこきこきと鳴らして、肩のあたりを()み込んでいる。

「アデライーデお姉様。お(つら)いようなら、わたくしがお背中を押しましょうか?」

 日本では家族や友人にマッサージをして、かなり好評(こうひょう)だったことを思い出したリーゼロッテは、アデライーデのソファの前で(ひざ)をついた。「あら、いいわね」との返事に、その背中をそっと指圧(しあつ)する。

「あっ! あっ! いい! それ、いいわ、リーゼロッテ!」

 リーゼロッテの小さな指でピンポイントに背中を押され、アデライーデが(いた)気持ちいい叫び声をあげた。

「お、おやめくださいませ! リーゼロッテ様はそのようなことなさいませんよう! ああ、お嬢様もお止めください! おふたりとも悪ふざけが過ぎますわ!」

 侍女の悲痛(ひつう)の叫びにアデライーデは身を起こすと、笑いながら目の前のリーゼロッテをぎゅっと抱きしめた。リーゼロッテもつられて淑女らしからぬ笑い声をあげてしまう。

「いいじゃない。未来の妹と親睦(しんぼく)を深め合っているだけでしょ」

 そう言ってリーゼロッテの血色(けっしょく)の戻った頬をするりと()でた。ひとしきり笑い合った後、アデライーデはリーゼロッテの顔をじっと(のぞ)き込んだ。

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