氷の王子と消えた託宣 -龍の託宣2-
 悶絶(もんぜつ)するように胸にかき抱かれ、リーゼロッテはあわあわとなった。すっかり(なご)やかな雰囲気に戻った場にほっと息をついた侍女たちは、ふたりのやり取りをみやりながら、仕方ないとばかりに目配せし合っていた。

 間近でアデライーデに顔を覗き込まれ、リーゼロッテの頬がぽっと赤くなる。ふと、いつもは眼帯で隠されている右目の傷が目に入った。
 化粧を(ほどこ)しているからだろうか。そこまで目の上下にかかる傷は目立たない。だが、その右眼はどことなく焦点を結んでいない。やはりその視力は失われているのだろう。

「傷が気になる?」
「はい、あの、いいえ……その……今も痛んだりはなさいますか?」

 気づかわし気な視線は、純粋に心配しているようだ。周囲からぶしつけに送られる同情の目を、いつもアデライーデは(わずら)わしく思っていたが、リーゼロッテのものはそれほど不快に感じなかった。

「そうね、寒い日なんかは痛むこともあるけど……言われてみれば、最近はあまり気にならないわね」

 その言葉にリーゼロッテがほっとしたような顔をする。そんなリーゼロッテをアデライーデは再びじっとみつめた。片目での生活も慣れてきた。だが、片側のみを酷使(こくし)する日々は、頭痛や過度な疲労をもたらしてくる。

(そういえば、ダーミッシュ領に滞在してから、ひどい頭痛も減ったような……)

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